恋は人を変えるという(短編集)
贅沢な音楽
柊さんとの出会いは、所謂合コンだった。
仕事が何時に終わるか分からないからと一度は断った誘いだけど、どうしても人数が揃わないらしく、仕事終わりで駆けつけることになった。女子の人数が一人足りない状況でも充分盛り上がっているその輪に溶け込むのは至難の業で、遠慮がちに一番端に腰を下ろした。理由は明白。テーブルの端に座っていた男性が、輪に入ることもなく黙々と枝豆を食べていたからだ。
「枝豆、お好きなんですか?」
「いや、特に。何でもたらふく食っていいからって連れてこられたので」
これが初めての会話だった。どうやら彼も人数合わせでここにいるらしい。男女共に人数が足りなかったのなら、初めから設定人数を減らせば良かったのに、と。苦笑したがもう遅い。せっかく駆けつけたのだからここで夕飯を済ませてしまおう。
枝豆の彼は「柊」とだけ名乗った。輪に入れない人数合わせ同士、ぽつりぽつりと会話をしているうちに、ご近所さんだということが分かった。働いている店も近くて、どこかですれ違っているかもしれませんね、なんて話をしているうちにお開きになって、盛り上がっていたメンバーは二次会へ。柊さんとわたしは揃って帰路についた。
そのあと帰り着いたアパートは同じだった。柊さんは二階、わたしは三階。ますますどこかですれ違っていそうな展開に顔を合わせて笑って、これも何かの縁だからとわたしの部屋で飲み直すことにした。
そして酔いに任せて一夜を共にして、その後も一緒にごはんを食べたり出勤したり、ほぼ毎日どちらかの部屋に居るようになって、今に至る。
余談だけど、柊さんとわたしは付き合っていない。