うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜
 



「僕ねえ、レッドイグアナが飼いたいんだよ」

 同窓会で行くような安い居酒屋の隅で、朝日はそんなことを言い出した。

 どのテーブルも馬鹿騒ぎをしていてうるさいが、今はその騒がしさに救われるというか、落ち着く。

「そうだ。
 部屋でなんかパンフレットみたいなの読んでたね」
と烏龍茶を飲みながら、瑞季は言った。

「うーん。
 でもさ、カメとかイグアナとかサルモネラ持ってたりするからさ。

 患者さんは高齢者が多いからね。
 ちょっとどうかなと思って」

 ああ、そうか、と思っていると、
「でも、昨日は、今、イグアナ飼ってたら、相楽さんの手をカプッてやらせるのにって思ったけどね」
と言ってくる。

「なんで?」

「いや……相楽さんの考えなしで突飛な行動に、久しぶりに心が動いたから。

 言ったじゃない。
 僕、僕を惑わす人が嫌いなんだよ」

 貴方は心を惑わす人が居たら、薬を盛ったり、イグアナに手をカプッとやらせたりするのですか。

 やはり、この人、どうかしています。

 お医者様を呼んでください、と思ったのだが、この人がお医者様だった。
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