うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜
「どうしたの、ぼんやりして」
瑞季が職場で、ぼうっとしていると、隣りの課の月橋エレナ(つきはし えれな)が声をかけてきた。
エレナはクォーターなのだが、言われてみれば、日本人以外の血も入ってそうかな、という感じ。
今は、カラーコンタクトも茶髪もみんな普通にやっているので、その辺の日本人の方が、むしろクォーターっぽいが。
それはともかく、エレナが可愛いことには変わりない。
「いやー、昨夜恐ろしいことがあってさ」
と瑞季が言うと、
「俺はお前の仕事がさっきから全然進んでないことの方が恐怖だがな」
という声が背後からしてきた。
エレナが、うわっ、という顔をして、逃げかかる。
「月橋、なにか持ってきたんじゃないのか?」
「あっ、はい、これです。
どうもすみませんっ」
とエレナは瑞季の背後に居た男に、社内の回覧板を差し出し、逃げ帰る。
後ろの男は、真島了弥(まじま りょうや)。
瑞季の課の課長だ。
恐ろしいことに同い年だ。