うっかり姫の恋 〜部屋の鍵、返してくださいっ!〜
 確かに。
 あのときは怖かったんじゃないかと思う。

 いつもと違う了弥が。

 だから、忘れようとした。

 本当に自分のことを好きでそうしたのか、弾みでそうしたのかわからなかったし。

 そんなことを考えている間に、あのときと同じにベッドに押し倒され、キスされる。

 少しずつ記憶が蘇ってきたのは、今日の了弥は怖くなかったからだ。

 ちゃんと、目を見て訊いてくれるから。

「……大丈夫か?」

 そう了弥がやさしく囁くように訊いてくれる。

 その黒い瞳を正面から見つめて、
「怖いけど。
 今日は頑張る」
と言うと、

「頑張るのか」
と笑われる。

 瑞季は赤くなり、
「そうじゃなくて。
 意識を飛ばさないように頑張るって意味」
と言った。

「……ところで、ひとつ疑問なんだが、お前んちの親は、お前の貞操観念をそこまで強くして、どうしたかったんだ」

 修道女にでもするつもりだったのか? と言ってくる。

 でもまあ、と了弥は笑った。

「おかげで、今まで誰とも付き合わずに居てくれたのなら、それでいいか」

 なんだかやっぱり泣きそうだな、と思った。
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