最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
大きな溜め息と一緒に吐き出された私の嘆きに、落ち着いた男性の声が答えた。
「ティボー様が次期国王に即位するために、キアラ様が必要だからです」
「あ、あなた!」
テーラが嬉しそうにポッと頬を染め、入り口に立っている夫のイルフォに向かっていそいそと駆け寄る。
イルフォは微笑みながら優しく妻の腰を抱き寄せ、その額に愛しげにキスをした。
綺麗な金髪の、精悍で凛々しい顔立ちのイルフォは、常に周囲の人目を引く美丈夫。
可憐で可愛らしいテーラとはお似合いの仲良し夫婦だ。
私の側仕えとして夫婦そろってついてきてくれて、その厚い忠義心には感謝の言葉もない。
こちらに来てからは、そんなふたりの仲睦まじく微笑ましい様子を見ることが、私の心の慰めだった。
でも、一番の心の慰めは……。
私は、そっとエヴルを盗み見た。
その綺麗な横顔を見た途端に心臓がトクトク騒ぎ始める。
……いつからだろう。
ずっと兄のように慕っていたエヴルの姿を見るたびに、胸の奥で小鳥がさえずるような、かすかなざわめきを覚えるようになったのは。
黒曜石のような瞳も、艶めく黒髪も、均整のとれた体躯も、彼のすべてが私に不思議な感情を抱かせる。
それはなんだか胸がキュッとなって苦しいのだけれど、決して不快なものではなくて。
逆に心地良いような、言葉に表せないような、ふわふわと浮き上がるような素敵な気持ちにさせてくれる。
エヴルを見るたび、今まで感じたことのない気持ちになってしまうのはなぜなのか、その答えを知りたい気もするけれど……。
私は胸に手を押し当てて、ざわめく自分の心を鎮めようと努めた。
だめ。その答えを知ってしまっては、きっとだめだ……。
「ティボー様が次期国王に即位するために、キアラ様が必要だからです」
「あ、あなた!」
テーラが嬉しそうにポッと頬を染め、入り口に立っている夫のイルフォに向かっていそいそと駆け寄る。
イルフォは微笑みながら優しく妻の腰を抱き寄せ、その額に愛しげにキスをした。
綺麗な金髪の、精悍で凛々しい顔立ちのイルフォは、常に周囲の人目を引く美丈夫。
可憐で可愛らしいテーラとはお似合いの仲良し夫婦だ。
私の側仕えとして夫婦そろってついてきてくれて、その厚い忠義心には感謝の言葉もない。
こちらに来てからは、そんなふたりの仲睦まじく微笑ましい様子を見ることが、私の心の慰めだった。
でも、一番の心の慰めは……。
私は、そっとエヴルを盗み見た。
その綺麗な横顔を見た途端に心臓がトクトク騒ぎ始める。
……いつからだろう。
ずっと兄のように慕っていたエヴルの姿を見るたびに、胸の奥で小鳥がさえずるような、かすかなざわめきを覚えるようになったのは。
黒曜石のような瞳も、艶めく黒髪も、均整のとれた体躯も、彼のすべてが私に不思議な感情を抱かせる。
それはなんだか胸がキュッとなって苦しいのだけれど、決して不快なものではなくて。
逆に心地良いような、言葉に表せないような、ふわふわと浮き上がるような素敵な気持ちにさせてくれる。
エヴルを見るたび、今まで感じたことのない気持ちになってしまうのはなぜなのか、その答えを知りたい気もするけれど……。
私は胸に手を押し当てて、ざわめく自分の心を鎮めようと努めた。
だめ。その答えを知ってしまっては、きっとだめだ……。