最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 そんな強力な物的証拠があるなら、王室も世間も無視はできない。
 きっとエヴルが本物の王子であることも、すぐに認められるだろう。

「イフリート様、その剣、ください!」
「ない」
「……はい?」
「剣はない」

 イフリート様に向けて両手を突き出しながら、私は小首を傾げた。
 剣がない? だってイフリート様が火事場ドロボウしたんでしょう?

「ここには、ない。精霊家の神殿に祀っているゆえ」
「……ああ、あそこにあるんですね?」

 この国には随所に神殿や祠があって、モネグロス様や精霊様を祀っている。

 精霊家はなんといっても精霊の末裔なのだから、屋敷のすぐ近くに小さな古い神殿が建っていて、領地の人たちの信仰の場になっていた。

「精霊家の神殿はね、遥か昔に私が造ったのですよ! なかなかの自信作なのです!」

「モネグロス様が? でもあの神殿には子どもの頃から何度も足を運んでいますけど、そんな剣は見たことないです」

「もちろん大事な剣なのですから、目立つ場所にはありませんよ。でもイフリートとノームが場所を知っていますから、案内をさせましょう」
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