最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 あれは……?

「あれは……公爵家の兵士だ!」

 エヴルが小さな声をあげ、私たちは同時に息をのんだ。
 公爵家の兵士!? いけない! このままだと見つかってしまう!

 とっさに近くの大きな荷台の陰にサッと身を潜めて、額をくっつけ合わせながらヒソヒソと会話を交わす。

「あれは公爵の兵士なの? 本当に?」

「はい。あの鎧は間違いありません」

「足音の数が、じんじょうじゃありません。もっともっと大勢きてるみたいですよ?」

「なんと、我らを追って来たのであろうか?」

 追って来た?
 だって私たちがここにいることは誰も知らないはずなのに、いったいどうして……?

 混乱しながら兵士の様子を窺う私の目に、さらに驚きの人物が映った。
 思わず荷台から顔を出して小さく叫んでしまう。

「オ……オルテンシア夫人!?」
「キアラ様、隠れてください!」

 私の腕をエヴルが慌てて引っ張った。
 もう一度荷台の陰からよくよく目を凝らして見たけれど……間違いない。あれはやっぱりオルテンシア夫人だ。

 しかもその恰好が、婚約式のときの妖艶なドレス姿とは打って変わった、シンプルな上着とズボンと、黒いブーツを履いた男装の麗人スタイル。
 しかもしかも、夫人の横にはちゃっかりティボー様までいる。

 ふたりは数人の兵士たちと固まって、なにやら真剣に話し込んでいる様子だった。

「な、なに話してるのかしら? ここからじゃ遠すぎて聞こえないわ」

「キアラさんなら、風のちからをつかえば聞こえるはずですよ?」

「え? 私の風の力?」

「はい、おねがいします」
< 110 / 162 >

この作品をシェア

pagetop