最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 ノーム様が私の手を取り、足元に咲いている花の蕾に触れさせた。
 すると小さな蕾が目覚めるようにポンッと開いて、そこから私の頭の中の言葉が漏れ聞こえてくる。

『ねえオルテンシア夫人。本当にあの連中は、ここに現れるのかな?』

『まず間違いございませんわ、ティボー様』

 ……すごい! 私、本当に風の力を使えた!
 不安そうなティボー様の声と、自信たっぷりなオルテンシア夫人の声に全員が耳を澄ました。

『でも逃亡者とは、もっと遠くへ行くのものじゃないか?』

『彼らは貴族とはいえ、所詮は田舎者。国外へ発つ手立てもコネもありません。潜伏するにしても、支援者も資金もありませんわ』

『だったら身につけている品を売るだろう?』

『あんな目立つ衣装を売れば、すぐに足がつきます。手を回して調べましたが、そんな品が市場に流れた形跡はありませんでしたわ。彼らはリスクがあっても、ここへ戻るしかないのです』

『なるほど! さすがは私のオルテンシア夫人だ!』

『ここの領地は他と違って防壁が整っていないから、どこからでも入り込めるわ。騎兵と歩兵を均等に配置して、すべての領内に目を光らせなさい。そして連絡は常に怠らないように私へ回して。よろしいわね?』

 兵士に命令した夫人が、銀のクロスボウを手に颯爽と立ち去っていく。
 その後をワタワタと追いかけるティボー様の姿をこっそり見送りながら、私は唖然としてしまった。
 オ、オルテンシア夫人って何者?
< 113 / 162 >

この作品をシェア

pagetop