最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「な、なんでティボー様じゃなくて夫人が陣頭指揮をとってるのかしら?」

「あのバカ息子では采配は無理だからでしょう。それにしても夫人の読みは、なかなか的を射ていますね。男を篭絡することしか頭にない女性かと思っていましたが」

 精霊家と公爵家の距離から考えて、あの騒動の後、即座に兵を連れてここまで馬を走らせたんだろう。

 本当に大した決断力と行動力だ。自分の屋敷でも迷うティボー様じゃ、こうはいかない。
 これが俗にいう、『後家の踏ん張り』ってやつかしら?

「でもこれじゃ神殿にちかづけませんねぇ」

「村を迂回したとしても、恐らく随所に兵が配置されているでしょう」

「困ったわね。どうすれば……」

「ん? おめえら何者だ? オラの荷台でなにしてる?」

 突然背後から声をかけられてギクッと振り向いたら、至近距離で羊と目が合ってびっくりしてしまった。

「あんれ、キアラお嬢様でねえか!? こった所でなにしてるだあ? 立派なお家に嫁っコさ行ったんだべ?」

「あ! 牛飼いのおじさん!」

 子どもの頃から顔なじみの牛飼いのおじさんが、牛と羊と一緒にキョトンとした顔で立っていた。
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