最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 途中で兵士に荷台を検査されないか心配だったけど、おじさんの方が一枚上手だった。

「おお、兵士さんたち、ご苦労さんだなあ。休みもなく立ち詰めで疲れたべえ? ほら、牛の乳でも飲んで頑張れや」

「やあ、ありがとう。助かるよ」

 羊を連れた、いかにも親切で純朴な田舎者を疑う兵士もなく、私たちは順調に村を抜けて行く。
 時間はかかったけれど、おじさんのおかげで問題なく神殿に辿り着くことができた。

 エヴルに抱えられながら荷台から下りて、子どもの頃から見慣れた神殿を見上げる。

 村の集会所としても使われている小さな神殿は、表面がポロポロ剥げかけている石壁に囲まれた、古ぼけたなんの変哲もない建物だ。

 とてもモネグロス様が手ずからお造りになった神殿とは思えないけれど、改めてよく見れば、柱の上部と丸屋根に、薄っすらと明るい色彩が確認できる。

 こびりついた汚れを落とせば、あの砂漠の神殿のような、目を見張る美しい模様が現れるのかもしれない。

「おじさん、助かったわ。本当にありがとう」

「いやいや。オラはまだこの辺にいるから、なんかあったら声ばかけろな?」

 手を振りながら去って行くおじさんの背中を見送り、私たちは木製の厚い扉を開けて中に入った。

 グルッと中を見回して見たけれど、並べられた長椅子と、お供え物を上げる小さな祭壇と、数本の古い燭台しか見当たらない。

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