最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 私の髪も、エヴルの髪も、風に煽られ生き生きと靡いていた。
 流れるままに、思いのままに、こんなにも清々しく。

「あぁキアラ様、あなた様の、なんと美しいことか……」

 私を見つめながら感嘆の声をあげるエヴルの姿こそ、美しい。
 火に照らされた頬はほんのり上気して、漆黒の髪や黒曜石色の瞳が煌めき、凛々しい顔立ちも気高い佇まいも、そのすべての素晴らしさに見惚れてしまう。

 この神々しいまでに美しい男こそ、我が国の王子。
 賢君ヴァニス王の血を継いで、民を導く者。
 それがエヴルにとっては自然で、ただ当たり前のことなのだと、心の底から理解することができた。

「風と異界の、神秘の血を受け継ぐ人。それがこの世界でたったひとりの、私の愛するキアラ様です」

 見つめ合う私とエヴルの心と心を、自由な風が繋いでくれていた。
 そして自然に顔を寄せ合い、そっと唇を触れ合わせた瞬間……。

―― ザアァァッ……!

 突然祭壇が眩しい光を放ち始め、その中から輝く無数の蝶が飛び立った。
 何百という光の蝶が神殿中を一斉に飛び交い、次々と幻のように消えていく。

 そして祭壇は影も形もなく消え去って、その場所には大きな穴がぽっかり開いていた。
 穴の中には、延々と下へ続く階段が見える。

「これは、地中へ降りる道なり」
「このさきに剣があるんです。さあ、いきましょう」
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