最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 広い広い洞窟中の、床から、壁から、天井から、ありとあらゆる所から膨大な量の宝石の柱が突き出している。

 大人でも抱きかかえるのは困難な巨大な結晶から、小指ほどの小さな結晶まで、大きさや形は様々。
 色も赤、黄、緑、紫、数色混じった物と、様々。
 まるでさっきの燭台の炎みたいに、ユラユラと内側から光り輝いていた。

「この宝石、自分で光っているのね! まるで燃えているみたいに明るくて綺麗!」

「わたしとイフリートのそんざいを感じて、宝石がとくべつに反応してるんですよ。これでもうキアラさんも、こわくないですね?」

「剣はもう、すぐ先にあり。さあ行くべし」

 私は笑顔でうなづいて、七色に輝く洞窟を意気揚々と先へ進んだ。
 自然の洞窟とは思えないほど足場が平らで、難なく歩いているうちに、急にこれまで以上に洞窟の幅が広くなって、ホールみたいに大きく開けた空間が見えてくる。

「見よ。あれがヴァニスの剣なり」

 イフリート様が指さす先は洞窟の行き止まりで、その最奥に白く細い光が見える。
 それは、研ぎ澄まされた刀身の放つ光だった。

 金色の砂を盛りあげただけの台座に、無造作に突きたてられている一本の剣が、鞘と並んで悠久の時を超え存在している。
 私は気後れしたように立ち止まってしまった。

 遠目からは鞘も柄も目立った装飾は見当たらず、神が鍛えた剣とは思えないほど質素な作りのようだ。
 なのに、思わずひれ伏したくなるような荘厳さがここまで漂ってくる。
 なんだか賢君ヴァニス王の、人となりを垣間見たような気がした。

「あれがヴァニス王の剣ね!? エヴル、ついに見つけたわね!」
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