最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 オルテンシア夫人の冷静沈着な声が、ティボー様の声を遮った。

「火災でずっと所在知れずだった剣の在り処を、彼は正確に知っていたのです。年の頃も符合しますし、目鼻立ちも亡くなった先王様に非常によく似ていますわ」

「そ、そう言われてみればたしかに……」

「それに田舎騎士とは思えないほど気品がある。……やはり育ちよりも、生まれ持つ血統の良さこそが重要なのね」

「じゃあ本当に王子なのか!? ど、どうしようオルテンシア夫人! 王子がいたら私は王位を継げないよ!」

「その答えはひとつですわ」

 婦人は動揺するティボー様を横目にボウガンをしっかり構え直し、鋭い声で言い切った。

「邪魔者は即刻、排除すべきです。国宝の剣もろとも、ここで全員朽ち果ててもらいましょう」

「そ、そうだな。衛兵! この者たちは元々罪人だ! 遠慮せずに斬り捨ててしまえ!」

「勝手なことを言わないで!」

 私は顔を真っ赤にしながら思いきり声を張り上げた。

 信じられない! なんて人たちなんだろう!
 本物の王子が現れたというのに、国の血統を断ってまで自分たちの欲望を叶えようとするなんて!

「ねえ、兵士さんたち! こんな人たちの命令を聞くつもり!? あなたたちは神話の時代から続く王室の血統を、途絶えさせてしまってもいいと思っているの!?」
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