最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 良心と愛国心に訴える私の叫びに、兵士たちは動揺してお互いの顔を見合わせている。
 その様子を見たオルテンシア夫人が、ニヤリと不敵な薄笑いを浮かべた。

「命令を聞いた者全員に、褒美としてここの宝石を持ちきれないほど与えると約束しましょう。大切な家族に裕福な暮らしをさせてあげたくはない?」

 その言葉に驚いた兵士たちが、周囲の宝石の山をキョロキョロと見渡す。
 魅入られたようにその価値を値踏みをしている彼らの目が、どんどんギラついていった。

「命令を実行することは、優秀な兵士として当然の勤めよ? なんら恥じることなどないわ」
「……」

 兵士たちが次々と獰猛な表情で剣を構え始めたのを見て、私は絶望した。
 イフリート様とノーム様も悲しそうな目をして、欲望に魂を売った人間たちを憐れむように見つめている。

 ああ、なんてことだろう。人間てこんなに汚い生き物なの?
 私は自分の中に流れる精霊の血を穢れた物のように考えていたけど……違う。

 精霊だからとか、人間だからとか、そんなことに囚われる意味などまったくなかった。
 恥ずべきことは、そんなことじゃない!
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