最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 私ももう、最悪を通り越して救いようのない気分になってしまって、ガックリうな垂れてしまう。

 いくら広いとはいえ、自分の屋敷で迷うってどうよそれ?

 あの人、悪評ばかり吸い寄せる大きな磁石みたいな人なのに、自分の頭の中の方位磁石はまったく働かないタイプなのね。

 たしかにティボー様に導いてもらうくらいなら、トナカイの大群にでもついて行った方がまだマシかもしれない。

「だが公爵家の権力には逆らえないのだ。精霊家に政治的な力は皆無なのだから」

 それもイルフォの言う通り。公爵家に睨まれたら、弱小貴族の精霊家なんてひとたまりもない。

 有力な貴族はみんな、いま最も勢いのある公爵家に右ならえなんだもの。

 それに逆らったりしたら、裏からどんなあくどい集団イジメをされるかわかったものじゃない。

 小さな我が領内は、みんな私の家族みたいなものだ。
 大切な家族が苦しめられるかもしれないと思うと、とてもこの縁談を断ることはできなかった。

―― トン、トン……。

 その時、扉をノックする控えめな音が響いて、私たちはハッと口を噤んだ。
 テーラが急いで扉を開けると、廊下に公爵家の侍女が畏まって頭を下げている。

「精霊家ご令嬢、キアラ様。婚約式の準備が万端整いました」

 一本調子なそのセリフを聞いた私は、一気に青ざめてしまった。

 ……ああ、ついに引導を渡される時がきた!

 テーラとイルフォも焦った様子で目配せし合っているけれど、さりとてこの状況をどうこうできる手段もない。

 仕方なくふたりは、扉の脇に控えて恭しく頭を下げた。
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