最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中！

　私の隣に立っているエヴルは、黒い両目を落ち着きなく泳がせ、歯ぎしりしながら必死に感情を抑えている。

　白い手袋をした手はギュッと固く握りしめられて、ブルブル小刻みに震えていた。

　私は自分の額にジットリと嫌な汗が浮かんでくるのを感じながら、どうしてもイスから立ち上がることができずにいた。
　どうしよう。ああ、どうしよう……。

　エヴルがスッと腰を屈めてひざまずき、わたしの目の前にゆっくりと片手を差し出す。

「キアラ様、お手を」
「エヴル。わ、私……」

　動揺する私を見上げるエヴルが、覚悟を決めたような力強い声で明言した。

「このエヴルが、ずっとあなた様のお側におります」
「エヴル……」
「いついかなる、どんな時でも、私が必ずやキアラ様をお守りすると約束いたします」

　頼もしく誠実なその言葉を聞いた私は、ようやく自分を取り戻すことができた。

　そうだ。私は精霊家の令嬢。領地を守らなければならない。

　誰かに助けを求めていられる状況じゃない。私がこの手で大切な彼らを助けなければならないんだ。

　決意と覚悟を奮い立たせ、私は彼の手に自分の手をそっと添えた。

　手袋越しでも、エヴルの体温と頼もしさがしっかりと伝わってくる。

　彼の温もりを感じた瞬間、なぜだか泣きそうになってしまったけれど、エヴルの忠義に支えられるようにして私はイスから立ち上がって歩き出した。