最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
惨めな婚約式
 数百人を収容することが可能な公爵家の大ホールは、どこもかしこも光り輝いていた。

 床は薄曇りの空色のような総大理石が艶めき、天井は無数のクリスタル製シャンデリアが透き通った輝きを放っている。

 汚れひとつない真っ白な壁や、窓の枠はすべて大量の黄金で装飾されていて、目が疲れてしまうほどのキラキラ具合。

 この豪華な大ホールで先ほどから始まった婚約式は、滞りなく粛々と進められていた。

 華やかな衣装に身を包んだ大勢の招待客たちは、ティボー様と並んで座る私の姿を、食い入るような目つきで興味津々見つめている。

 突き刺さる視線が痛いし、ご夫人方、ご令嬢方が身につけている香水の濃厚な香りに鼻と喉をやられて、いまにも呼吸困難に陥りそうだし。

 しかも私の隣に座っているティボー様の、凄まじい恰好ときたら……。

 イスの横幅にやっと収まる、ずんぐりむっちりなティボー様の体を包む衣装は、金糸銀糸の刺繍がごってりと施された紫色のかぼちゃパンツと、ハムの塊りのような足をすっぽり包む真っ白タイツ。

 そしておそらくこれが一番ポイントなのだろうけれど、ナトゥーラ王家の紋章でもある、『双頭の馬』の形をリアルに造形した帽子を被っている。

 つまり、ティボー様の頭のてっぺんからね、馬の頭がビョーンと飛び出ているのよ。二頭分。

『我こそが正当なる王位継承者なり』っていう、彼なりの強烈なアピールらしいけれど……怖すぎる。
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