最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
また、はじまる
 夢を……見た。
 その夢の中では、うつつに霞む視界の果てまで、見たこともない不思議な景色が広がっていた。

 細長い塔のような不思議な建造物が、突き立つ槍のごとくに空に向かって群れ建っている。

 ひとつの塔のてっぺんに、ふたつの人影が見えた。

 美しい銀色の髪の男が、女性をしっかりと抱きしめている様子が見える。
 男はこちらに背を向けていて、女性は男の胸に顔をうずめているから、どちらの顔も窺えない。

 でもふたりとも、大きな幸せに満ちているのが私にはわかった。

 だって、ほら、風が吹いている。
 限りない喜びに染まった清々しい風が、ふたりを包む込むように渦巻き、高らかに愛を叫んでいる。

 この風は銀の風。
 強く、誇り高く、世界を超える信念と勇気に満ちた風。
 ……あなたなのですね?
 私は思いのまま風に髪を靡かせ、愛しい人を腕に抱きしめる、その風の主の名を呼んだ。

『ジン様……』

 唇を温かく柔らかい物で覆われて、私は夢の世界から現実へと戻された。
 目覚めた私の寝ぼけ顔を、唇を離したエヴルが微笑みながら見つめている。

「おはようございます、キアラ様」

 私はベッドの上で軽く伸びをしながら、笑って朝の挨拶をした。

「おはよう、エヴル。愛しの婚約者様」
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