最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 早いものであの大騒動から、もうひと月以上が過ぎた。
 ヴァニス王の剣を持って名乗り出たエヴルは本物の王子と認められ、立太子の儀を経て、正式な次期王位継承者となったばかりだ。

 亡くなった息子に生き写しのエヴルと謁見した皇太后さまは、まさに狂喜乱舞。
 もともと昔気質で精霊家に対する敬意も厚かった皇太后さまは、可愛い孫の命の恩人とばかりに私に心から感謝してくださって、エヴルとの仲も快く認めてくださった。

 エヴルが王位を継ぐまでもうひと頑張りとばかりに、日々精力的に政務に励んでいらっしゃる。

 ティボー様とオルテンシア夫人は、洞窟の救助活動の騒動に紛れて、ふたり揃って姿を消した。
 ようとして行方は知れず、おそらく外国へ逃げたんだろうと思われている。

 まあ、ティボー様はともかくとして、オルテンシア夫人だったらどこに行っても逞しく生き抜いていけるだろうから、ぜんぜん心配はしていないけど。

 そういえばプリシラの首輪に、あの家宝のルビーが括りつけてあったらしい。
 きっとずっとプリシラの面倒を見てくれていたおじさんへの、感謝のしるしなんだろう。

「どこぞでまた、犯罪に加担していなければよいのですが」

 そう言って溜め息をつくエヴルは、晴れて王太子になったというのに私に対しては相変わらずの丁寧口調。
 身に染みついた癖というものは、なかなか抜けないものらしい。

 身分的にバランスがとれないので、私もエヴルに対して丁寧語で話していたら、「お願いですからやめてください」と真顔で頼まれたので、しかたなく元に戻した。
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