最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 正式に婚約した日の夜、部屋に忍んできたエヴルの気合い満々な様子を察知した私が、我が身の貞操を守るために必死に提案した条件だ。

「私は約束は守る男です。ですからキアラ様も約束を守ってください」

 熱の籠った黒い瞳が、艶やかに微笑む。
 いたずらな指先がますます私の敏感な部分を責めたてて、思わず苦悶に似た甘い声を漏らしてしまった。

 その声を聞いた彼の指が『もっと聞かせろ』と言わんばかりに、的確な場所をじらすように繊細に蠢く。

 愛する人の舌と指先が、徐々に強く、激しく、甘く、深く、身悶える私を翻弄する。
 全身は悩ましく蕩け、思うさまエヴルの望む声を聞かせてしまった。

 熱い頂きの声を放って、甘美な波と火照りがゆっくりと引いていく私の裸身から、エヴルの指と唇が名残惜しげに離れていく。

 またあちこちに増えてしまった愛の花びらを、私はぼうっとしながら見つめていた。

「いつまでもそんな悩ましい姿のままでいたら、最後の一線を超えない約束を破ってしまいますよ?」

 耳朶を甘噛みしながら吐息を吹きかけられて、私は慌てて夜着を掻き合わせながらベッドから飛び起きる。

 ちょうどそのとき、ベランダのカーテンが大きく揺らいで不思議な花の香が部屋中に広がったかと思うと、突然パッと人影が室内に現れた。

「……イフリート様!? ノーム様も!」

 そこに現れたふたりを見て、私は歓喜の声を上げながら駆け寄った。
 このふたりはなにも告げずに忽然と神殿の洞窟から姿を消してしまって以来、一度も姿を現してくれなくて、エヴルと一緒にとても心配していたんだ。
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