最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 必死になって見ないように努力しても、馬の頭が視界の端でびょんびょん揺れ動いて、どうしてもそっちに意識がいってしまう。

 ティボー様の肉づきのよい頬には真っ白なおしろいが塗られて、ご自慢のちょびヒゲがくるりんと上向いているのが、また堪らない。

 私、だめなのヒゲは。生理的に受け付けないのよ。

 ああ、どうしよう。なんだかもうこの人って、なにかの不思議な物体にしか思えない。

 私、本当にこの物体と結婚するの?
 いつかこの物体の子どもを産んで、そして一生添い遂げるの?

 考えただけで心肺機能が乱れる。たぶん顔色も真っ青になっていることだろう。

 これじゃだめだ。なにか別のことを考えてこの場を乗り切ろう。ええと、羊が一匹、羊が二匹……。

 そんな風に人知れず奮闘する私の様子を、少し離れた場所からエヴルたちが心配そうに見守っていた。

「今日こうしてキアラ嬢を私の隣にお迎えできたことは、非常に喜ばしい。私たちの行く末に、善神モネグロス様の厚い御加護があらんことを」

 そう宣言したティボー様が立ち上がり、右手を頭上に高々と掲げる。

 これで私たちの婚約は、広く社交界に知らしめられたことになる。
 鬱々と立ち上がった私はティボー様の隣に立って、一列に並んだ諸侯からの祝福の言葉を順番に受けた。
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