最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「初めまして。キアラと申します」

「まあ、なんて美しいご令嬢でしょう。キアラ様を前にしたら私など、大輪の薔薇の横に咲く小菊のように掠れてしまいますわ。ねえティボー様?」

「なにを言うオルテンシア夫人! あなたの美貌はこの世の何物にも勝る!」

「んまあぁ、なんとお優しいお言葉でしょう」

 オルテンシア夫人は腰を屈めて礼をしようとした途端、なにもない所で急に「あっ」と躓いた。
 その拍子にティボー様にヨロヨロッとしなだれかかる。

 夫人よりだいぶ背の低いティボー様は、思いっきり横倒れになりそうになったけれど、根性で踏ん張って彼女の豊満な体を支えた。

「あら、ごめんあそばせ」
「い、いや。これくらい造作もないよ」
「なんと逞しいお方。さすがはティボー様」

 頬を染め、うっとりとティボー様を見つめるオルテンシア夫人の魅惑的な表情に、ティボー様はすっかりご満悦。

 ふたりの間にはなにやら特別な空気が漂い、呆気に取られる私をそっちのけで熱く語り合っている。

「ティボー様、夫を亡くした私をずっと支援してくださっている御恩、私は片時も忘れたことはございませんわ」

「悲しみに打ちひしがれるご婦人に救済の手を差し伸べるのは、紳士として当然のたしなみだよ」

「なんと御心の深く広いお方! やはりティボー様こそ次期国王となるべきお方ですわ!」

 鼻にかかった甘い声を出し、長い睫毛をバサバサ瞬かせながら夫人はチラリと私に視線を流した。
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