最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 深く妖しい赤色はまるで血のように濃く、台座の繊細な金細工が見事に石を引き立てている。
 高価な宝石には縁のない私でも、ひと目で途方もない逸品だとわかった。

「おお、とてもよく似合っているよ。やはり夫人は赤が似合う」

「でもこの指輪は公爵家に代々伝わる家宝なのでしょう? 私ごとき女が頂いてもよろしいのですか? 相応しい女性がいらっしゃるのでは?」

「いいや! これほど美しいルビーに釣り合う女性はあなたしかいない!」

「んまあ、嬉しい。ティボー様……」

 感極まった声で囁くオルテンシア夫人の意味深な目が、私の左手にチロッと注がれた。

 それにつられたように周りの貴族たちも、私の薬指に嵌められているダイヤモンドの指輪に注目する。

 もちろん大きくて立派なダイヤだけれど、ただゴロンとした石が台座にくっついているだけの、味も素っ気もない指輪。

 夫人が身に着けている家宝の指輪に比べれば、いかにもみすぼらしく、間に合わせの品であることは一目瞭然だった。
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