最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 自分の婚約者が愛人の女性と楽しげに踊る姿を眺めながら、周囲の同情の視線と、哀れみの空気と、かすかな嘲笑を受ける、哀れな令嬢。

 私の立場はオルテンシア夫人の思惑通り、婚約式の主役から晒し者へと一気に転落してしまった。

「……」

 それでも私は、意識して背筋をシャンと伸ばし、顎を上げて天井のシャンデリアを見つめた。

 ここでみっともない態度をとれば、精霊家が世間の笑いものにされてしまう。

 こんな仕打ちなんか、なんでもないわ。私はへっちゃらよ。

―― グイッ……

 気を張りつめて立つ私の肘を、誰かが掴んで横に引っ張った。
 え?と思う間もなく私の体はふわりと揺れて、その人の大きな胸の中に倒れ込んでしまう。

「キアラ様、大丈夫ですか?」
「……エヴル?」

 キョトンと見上げたすぐ目の前に、エヴルの顔があった。

「今朝からずっと体調が優れないご様子でしたね? 相当お疲れが溜まっていらっしゃるのでは?」
< 22 / 162 >

この作品をシェア

pagetop