最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 そんな私たちの様子に気がついた周りの客人たちが、次々と声をかけてくる。

「まあキアラ様、どうなさいましたの?」
「お加減がお悪いのですか?」
「ご無理をなさってはいけない。もうすぐ花嫁となる大事な御躰なのだから」

 エヴルの胸に顔をうずめたまま、『え? なに?』と目を白黒させている私の頭上で、しれっとした声が響く。

「皆様、大変申し訳ございませんが、キアラ様は非常にお疲れのご様子です。少々休息が必要のようなのです」

「そうですわね。あなた護衛の方? すぐにキアラ様をお部屋で休ませてさしあげなさいませ」

「はい。それでは失礼いたします。さあキアラ様」

 エヴルの大きな手で背中を軽く押され、私はその場から歩き出した。

 背中に添えられた手のひらから優しい温もりが伝わってきて、張りつめていた心が緩んで元気が出てくる。

 この居たたまれない場所から、私を救い出そうとしてくれているのね?
 ……ありがとう、エヴル。

「あの、キアラ様、もっとお加減が悪そうな芝居をなさってください。そんなにスタスタ元気に歩かないで……」

 あ、そ、そうね。
 慌てて「あぁ、眩暈が」とか言いながらフラついて、芸の細かいところを見せたりして。

 フラフラ危なっかしい足取りを演出しながら、私はエヴルの腕にしっかりと支えられるようにしてホールを後にした。




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