最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 エヴルとふたりで手を繋いで、朝から晩まで一日中領内を駆け回って遊んだ。

 キラキラした朝露に足元を濡らしながら草原を走り回り、名もない小さな花を摘んでは冠にして、ふたりで被って笑い合った幼い日々。

『わたし、王妃さまよ!』
『じゃあボクは、王さまだ!』

 浅い川に裸足で飛び込み、魚を追って頭からビショ濡れになった。

 ふわふわの雛鳥を両手で包み込んで、その命の温もりにドキドキした。

 お腹が空いたら畑の野菜をもぎ取って、そのまま丸齧り。小作人のおじいさんにずいぶんと叱られたわ。

『こらあ! キアラお嬢様もエヴルも、汚れた手で食ったらハラ壊すべさ!』
『きゃあ! エヴル逃げよう!』
『キアラ、こっち!』

 逃げ込んだ牛小屋に隠れているうちに、疲れてそのまま眠り込む。
 土の香りと、フカフカの牧草の手触り。そして隣で寝ころぶエヴルの穏やかな寝息が、なによりも心地良かった。

 空には眩しい太陽が燃え、爽やかな風が吹き、澄み切った水が懇々と湧いて、大地が優しく命を育む。

 ずっとずっと、私にはあの世界があると思っていた。あの世界で生き続けていけると信じて疑わなかったのに。
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