最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「キアラ様……」
「……」
「キアラ様、どうか泣かないでください」
もう二度と、故郷のあの景色を見ることはないのだろう。
記憶の中の愛しいあの世界も、涙で霞むこの庭園のように、いつか霞んでしまう日がくるのだろうか。
「ごめんなさい。私、みっともないわね。大丈夫、すぐに泣き止むから!」
嫌だ。こんな風にメソメソしたくない。
私が泣いたりしたら、周りのみんなにつらい思いをさせてしまう。
そんなの嫌だから、ずっと自分を鼓舞して明るく振る舞っていたのに。
手の甲でゴシゴシと頬を拭いたら、自分の左手の薬指の指輪が見えて、途端にまた涙が両目に盛り上がる。
唇をギュッと噛んで、目を大きく見開いて、どうにか涙を落とさないように頑張ってはみたけれど、私の努力も重力には敵わない。
目尻から涙が、心細さや寂しさと一緒にポロポロ頬を伝った。
こんなの全然、私らしくない。
涙なんてなんの役にも立たないんだから、泣いたりなんかするもんか。
そう思っているのに……なの、に……。
―― ふわり……。
温かくて大きなものに、後ろから突然抱きしめられて息をのんだ。
漆黒の袖口の金刺繍を見て、私の心臓がドキンと跳ね上がる。
「泣かないでください。キアラ様」
喉の奥から絞り出されたような切ない声が、私の髪をくすぐった。
「あなた様の涙は見たくない。悲しむ顔も、張りつめた姿も見たくはない。私はあなた様の笑顔が好きなのです」
「……」
「キアラ様、どうか泣かないでください」
もう二度と、故郷のあの景色を見ることはないのだろう。
記憶の中の愛しいあの世界も、涙で霞むこの庭園のように、いつか霞んでしまう日がくるのだろうか。
「ごめんなさい。私、みっともないわね。大丈夫、すぐに泣き止むから!」
嫌だ。こんな風にメソメソしたくない。
私が泣いたりしたら、周りのみんなにつらい思いをさせてしまう。
そんなの嫌だから、ずっと自分を鼓舞して明るく振る舞っていたのに。
手の甲でゴシゴシと頬を拭いたら、自分の左手の薬指の指輪が見えて、途端にまた涙が両目に盛り上がる。
唇をギュッと噛んで、目を大きく見開いて、どうにか涙を落とさないように頑張ってはみたけれど、私の努力も重力には敵わない。
目尻から涙が、心細さや寂しさと一緒にポロポロ頬を伝った。
こんなの全然、私らしくない。
涙なんてなんの役にも立たないんだから、泣いたりなんかするもんか。
そう思っているのに……なの、に……。
―― ふわり……。
温かくて大きなものに、後ろから突然抱きしめられて息をのんだ。
漆黒の袖口の金刺繍を見て、私の心臓がドキンと跳ね上がる。
「泣かないでください。キアラ様」
喉の奥から絞り出されたような切ない声が、私の髪をくすぐった。
「あなた様の涙は見たくない。悲しむ顔も、張りつめた姿も見たくはない。私はあなた様の笑顔が好きなのです」