最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 全身に満ちる喜びと幸福感は、同時に私自身のエヴルへの想いも、ついにはっきりと悟らせてくれた。

 私は、エヴルに恋をしている。

 そして、その気持ちを認めてはいけないことも……。

「……ありがとうエヴル。あなたの騎士としての忠誠に心から感謝するわ」

 私はエヴルの腕の中で軽く身じろぎ、さり気なくその抱擁から逃れようとした。

「キアラ様?」
「さあ、もうホールへ戻りましょう。いつまでもこうしてはいられない」

 できるだけ明るい声でそう言って、私の体を包むエヴルの腕を解こうとした。
 でもエヴルはますます腕の力を強めて、決して離さないと言わんばかりに抱きしめてくる。

「なにをおっしゃっているのですか! 私の想いは騎士の忠誠ではなく、ひとりの男としての恋情です!」

 それは私にとって、あまりに辛い言葉だった。
 聞こえないように両手で耳を押さえたけれど、エヴルの叫びは簡単に耳の奥まで届いてしまう。

「キアラ様も私のことを、同じように想ってくださっているのではないのですか!?」

「でも私はティボー様と結婚するの!」
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