最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
婚約者は最低野郎
「最悪ですわ」
「はい?」
「これって最悪ですわ」
「なにが最悪なんですか?」
「なにもかも、ですわ」

 そう答える私を見つめる侍女のテーラが、小首を傾げながら心配そうな表情になった。

 風に波打つ小麦のようなテーラの金髪がふわりと揺れて、くるりとまあるい大きな目が、一途にこちらを見つめている。

 すでに夫もいる年齢なのに、そんな可憐で可愛らしい仕草が小柄な体つきと相まって、テーラは実年齢よりずいぶん幼く見えた。

「もしかしてキアラ様は、いまお召しになっているそのドレスがご不満なのですか?」
「ドレスは素敵ですわ。すごく」

 手触りのよい艶やかな最高級生地で仕立てられたドレスは、襟元も袖もスカートも繊細なレースでたっぷりと飾られて、目を見張るような手の込んだ刺繍が贅沢に施されている。

 こんな豪華絢爛なドレスなんて、見るのも着るのも生まれて初めてだ。
 さぞかし大量の金貨と手間がつぎ込まれているのだろう。

「気に入らないのは、この状況ですわ」

 私は大きな溜め息をつき、心のままにうな垂れて見せた。

「なんで私がこんなスペシャル豪勢なドレスに身を包んで、次期国王になる公爵家のご長男と、これから婚約式に臨まなければならないの? ……ですわ」
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