最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 ……エヴル!? あなた、なにを言っているの!?

「ち、違……!」
「なにとぞ、哀れなキアラ様を罪に問うようなことだけはお許しください。なにとぞ、なにとぞお願い申しあげます」

 私の言葉を遮るように懇願するエヴルを、ティボー様は憎々し気な顔で睨みつけてフンッと鼻から息を出した。

「キアラ嬢は不問に付すが、お前はいますぐ部屋から出ていけ! そしてこの先一生、キアラ嬢に会うことは私が許さんぞ!」

「はい。寛大な御処置に感謝いたします。それでは」

 スッと立ち上がったエヴルは私と向かい合った。
 顔を強張らせている私とは対照的に、彼の表情は落ち着き払って微笑みすら浮かべている。

 でも黒い瞳の奥には、深い悲しみの色が見え隠れしていた。

「キアラ様、いつまでもお側にいる誓いを守れなくなってしまいました」

「エヴル……」

「それでも私は、遠い空からあなた様を生涯見守り続けています」

 それだけ告げて、エヴルが踵を返した。
 私から離れていく背中を見ているうちに、ようやく思考が動き出す。

 ボケッと見送るつもりなの!? ティボー様にお許しを願わないと!

「ティボー様! どうかご容赦くださいませ!」

 私は床にひざまずき、ティボー様の体に縋って必死に懇願した。

 長上着を握りしめてグイグイ引っ張るたびに、ティボー様の帽子の馬飾りがタイミングよくビョンビョンと揺れ動く。

「臣下の罪は、主の罪! 罰を受けるべきはエヴルではなくこの私です!」
「キ、キアラ様、なにをおっしゃっておいでですか!」

 部屋を出て行きかけていたエヴルが驚いて足を止め、振り返った。
 でも私は構わずティボー様に縋って懇願し続ける。

「私が責任を負いますから、なんなりと罰をお申しつけくださいませ!」
< 34 / 162 >

この作品をシェア

pagetop