最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 ティボー様は私の必死な様子を見て、不機嫌極まりない顔をして黙り込んでいたけれど……急にニヤリと頬を歪ませて笑った。

「よろしい。そこまで言うなら許してやらないこともないぞ」

「本当でございますか!?」

「うむ。いまここで、そなたが私の靴に口づけをするならな」

「……!」

「あの男の目の前で這いつくばり、この私の靴に口づけをして、生涯の従属と忠誠を誓うことがそなたへの罰だ」

 私は声を失い、ティボー様の得意げな顔を凝視した。
 這いつくばって靴に口づけろと? そんな……。

 思いもしなかった展開にうろたえる私を見ながら、ティボー様は実に楽しそうに続けた。

「この国の王となる私に忠誠を誓えないのか? これでは精霊家の忠義も怪しいものだ。諸侯たちに今後は精霊家の動向に注意を払うように申し付けねばな」

 ご自慢のちょびヒゲを指先でクリンとつまみ上げ、鬼の首でもとったような顔をする。

 私の一番の弱点である故郷までもを盾にして脅すつもりだ。……なんて男だろう。

 この窮地に慌てたエヴルが駆け寄ってきて、ティボー様の足元に頭をつけんばかりにして懇願した。
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