最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 シーンと静まり返った室内で、私もエヴルもそのまましばらく呆然と固まってしまっていた。

 やがてティボー様が「うぅっ」と小さな呻き声をあげながら、モゾモゾと身動きを始める。

 あ、動いた。一瞬死んだのかと思っちゃった。べつに死んでてもなんの問題もないんだけど。

 ……と思ったところで、ハッと我に返った。
 そうよ! このままだと大問題になってしまう!

「エヴル! 今のうちに逃げましょう!」
「え?」
「え?じゃない! ほら急いで!」

 私はエヴルの手を強引に引っ張って立たせて、そのままグイグイ扉へ誘導する。

「この状況で、あの人がこのまま済ますわけがないでしょ!? 絶対『死罪!』とか言い出すに決まっているわ!」

「死罪? いや、さすがにそれはないでしょう?」

「いいや! 言う! あの男なら言う! だってバカだもの!」

 強い確信を持った私の言葉に、エヴルもまったく反論できずに黙り込んだ。

「みすみす殺されてしまうわけにはいかないわ! こうなったらこのまま逃げるしかないの!」

「……わかりました」

 なんだか悪い夢でも見ているような表情をしながらも、エヴルが扉の陰から外の様子を窺った。

 ちょうど人の気配がないのをしっかり見定めてから、私に向かって手を差し出す。

「一緒に逃げましょう! キアラ様!」

 私は左手薬指から婚約指輪を抜き取り、床に放り投げた。
 そしてエヴルの手をしっかりと握り、もう片方の手でドレスを持ち上げながら懸命に廊下を走り出した。




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