最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 イルフォとエヴルが目配せし合い、すぐ横の大窓のガラスを素早く肘で打ちつけた。
 ガラスは派手な音をたてて粉々に砕け散る。

「さあ、ここから庭に逃げましょう!」

 割れた窓を乗り越えて全員で庭に飛び出し、逃げ場を求めて走り出したはいいけれど、ずらりと隙間なく並べられた庭木が迷路みたいな複雑な道をつくっている。

「こういった庭は、敵襲を防ぐための防壁の役割があるのです」

「どうしよう! どっちに進めばいいのかわからないわ!」

「キアラ様、ご案じなさるな。テーラよ、頼む」

「はい、あなた。みんな、私についてきてください」

 テーラを先頭にして、私たちは迷路の庭をジグザグとひた走った。
 びっしりと葉の生い茂った、背の高い樹々が列になって密集しているから視界が狭い。

 どこをどう走っているのか私にはさっぱりわからないけれど、なぜかテーラは自信満々に進んでいく。

 分かれ道のたびに「どっち? そう、こっちね?」と、ブツブツ小声で独り言をしゃべっているのが妙だった。

 きっちり敷き詰められた石畳の上を、エヴルに手を引かれながら走っているうちに、静かだった庭中に人の気配がわらわらと満ちてくる。

 きっと四方八方から衛兵たちが入り込んできているんだろう。

「どこだ!? どこに隠れている!?」
「こっちにはいなかったぞ!?」
「なんて逃げ足の速い令嬢なんだ!」

 衛兵たちの困惑した叫び声があちこちから聞こえてくる。

 ええ、自慢じゃないけど私、逃げ足は速いのよ。
 子どもの頃から足場の悪い畑の中を、毎日おじいさんに追いかけ回されて鍛えてるから。
< 40 / 162 >

この作品をシェア

pagetop