最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「キアラ様! いけません!」
「は、放して! エヴルが!」

 ジタバタともがいている間にも、オルテンシア夫人の指先が引き金を引いてしまいそうだ。
 青ざめる私の全身から、焦りと恐怖の汗がドッと噴き出てくる。

 やめて。やめてやめて。お願いだからやめて。エヴルを殺さないで!

「エヴル! エヴル逃げてー!」
「さあ夫人! 撃つのだ! あの生意気な田舎騎士に目に物見せてやれ!」

 ティボー様の声に応えるように、オルテンシア夫人の目がギラリと鋭く光った。
 ああ……エヴルが撃たれる! 死んでしまう!

「嫌! 嫌! 嫌ぁ!」

 イルフォとテーラの腕の中で、泣き喚きながら無我夢中で暴れる私の目に、ついに夫人の指先が動くのが見えた瞬間……。

「いやあぁぁぁーーーーー!」

 天を仰いで絶叫する私の声が轟くと同時に、私の中の“なにか”が爆発した。

 まるで全身の歯車という歯車のすべてが、限界を超えて一気に稼働したような感覚。
 そして突然、体内に暴風が駆け抜ける。

 自分自身の奥深い部分から荒れ狂う風が生まれて、それがゴォゴォと鼓膜を震わす音をたてながら、牙を剥くように周囲に襲いかかった。
< 43 / 162 >

この作品をシェア

pagetop