最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 水の精霊『アグア』。
 火の精霊『イフリート』。
 大地の精霊『ノーム』。
 風の精霊『ジン』。
 そして、この国の伝説の賢君、『ヴァニス王』。

 この五人の英雄たちを率いた、この世で最も偉大なる善神『モネグロス』が、命がけで悪しき神を滅ぼし世界を救った。

 まあ、ありがちな神話だ。
 どこの国でも必ずひとつはある、勧善懲悪物語の鉄板。

 私の家のご先祖様は、この精霊たちのどれかひとりらしくて、私の一族は精霊の血を代々受け継いでいる。
 ……ということになっている。一応。

「そんなわけないのにね」

 私は腰掛けているイスの背もたれにウーンと寄りかかり、両腕を高々と天井に向けて思いっ切り背伸びをした。

「ああ、日頃着慣れない高級ドレスなんか着ているから、体中が緊張してもうバキバキだわ」

「キアラ様、言葉遣いが完全に素に戻ってますよ?」

「いいわよ。いまはテーラしかいないんだし」

 建国神話なんて、言ってみれば国が見栄張った壮大なホラ話。
 だいたい、人間の祖先が精霊なわけないでしょう? もしそうなら私は人間と精霊のハイブリットってことになる。

 なにその、なんの役にも立たなそうな品種改良は。一歩間違えれば不気味な妖怪変化の仲間入りだわ。

「キアラ様、精霊と妖怪は違います」

「似たようなものよ」

「全然違います」

「どっちも現実には存在しないものでしょ? いるって言うなら見せてよ。どこにいるのよ、そんなもの」

「あのう、私にケンカを売られても困ります」

「……そうだった。ついまた八つ当たりしちゃった。ごめんなさい」
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