最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「きゃ!?」
 私を軽々と横抱きに抱えながら、エヴルはスタスタと歩き出す。
 俗にいう『お姫様抱っこ』なるものを体験してしまって、私は顔を赤らめてしまった。

 内心憧れてはいたけれど、これって実際されると結構恥ずかしい。
 ……ちょっと嬉しいけど。

「ど、どこへ行くの?」
「モネグロス様の元へ、これから私がご案内いたします」
「え!? わ、私が神様に会うの!?」

 ことの真相がまだぜんぜん理解できていないのに、いきなり神様と会えと言われても、困る!

 なにより、信じていたイルフォとテーラの正体が不明であることが、私の心をひどく不安にさせた。

 そんな心中を読んだように、エヴルは頼もしい言葉で不安を払拭してくれる。

「こ心配には及びません。私がお側についております」

「エヴル……」

「なにがあろうとも、私がキアラ様をお守りいたします」

「ありがとう。あの、ところで……」

「なんでしょうか?」

「お、下ろしてくれない? 自分で歩けるから」

「いけません! キアラ様はつい先ほどまで意識がなかったのですよ!? なにかあったらどうするのですか!」

「もう大丈夫だから」

「いけません! どうか私にお任せください!」

「でも恥ずか……」

「いけません!」

「で、でも恥ずかしいんだってば!」

「なにを恥ずかしがることがあるのですか? 人の目など、どこにもありませんよ? ほら」

 エヴルに促されて前を向いた私は、「うわあ……!」と感嘆の声をあげながら目を丸くした。
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