最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 白一色だった部屋から一歩廊下へ出た途端、一転してそこは極彩色の世界だった。

 アーチ型の高い天井や、壁や、床が、虹のような豊かで美しい配色に彩られている。

 しかもよくよく見れば、この顔料って全部宝石を砕いた物じゃないかしら?

 透明感のある色彩が、天窓から差し込む神々しい光に照らされてキラキラと輝いていた。

 文字通り輝くばかりに美しい廊下は、エヴルの言う通り誰の姿も見えず、シーンと静まり返って歩くたびに靴音が空間に反響する。

 でもその音の醸し出す、しみじみとした静けさが心を落ち着かせ、うっとりするほど心地いい。

 本当にここは、私とエヴルのふたりきりなのね……。

「ここでは人目を憚る必要などありません。どうぞ安心して、思うまま私に身を任せてください」

 目を閉じて穏やかな空間に浸っていたら、そんな言葉を耳元で優しくささやかれて思わず心臓が高鳴った。

 『私に身を任せろ』っていう、とっても微妙な単語をつい深読みしてしまったせいだ。

 自意識過剰だと思い直したものの、いったん意識してしまうと、私を抱えるエヴルの腕の筋肉や、密着する胸元の逞しさが気になってしかたない。

 エヴルって細身に見えるのに、こんなに男らしいのね……。
< 55 / 162 >

この作品をシェア

pagetop