最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 彼の唇をそっと盗み見たら、キスしたときの感触が生々しく思い出されて、疼くような甘酸っぱい切なさがこみ上げてきた。

 私たち……キス……しちゃったんだ。

 今さらになってその事実がヒシヒシと胸に迫ってくる。

 秘めやかな恋の行為を体験した自分が、その相手が目の前にいることが、恥ずかしくて堪らない。

 勝手にひとりで動揺している自分が、みっともないやら恥ずかしいやらで、私はモジモジしながら顔を伏せた。

―― チュッ……。

「きゃっ!?」
 突然、頭のてっぺんに柔らかさと温もりを感じて、びっくりして声をあげてしまった。

 思わずエヴルを見上げると、彼はハッとしたように目をパチパチと瞬かせている。

 その顔がパーッと赤く染まったかと思うと、口ごもりながら必死に弁解し始めた。

「も、申し訳ございません! 目の前のキアラ様の、つむじが……」

「つむじ?」

「はい、あの、つむじがあまりにお可愛らしくて、む、無意識にキスをしてしまいました! 大変失礼いたしました!」

 あたふたと謝るエヴルを見ながら、キョトンとしてしまった。
 つむじが可愛い? 私って、つむじが可愛いの?

 もともと人から可愛いなんて言われたことはないけれど、それにしても、かなり珍しい部位を褒められた気がする。
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