最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 するとエヴルが、またあたふたと弁解し始めた。

「もちろん、つむじだけが可愛いというわけではございません! キアラ様はどこもかしこも、全身くまなく大変にお可愛らしいですとも!」

「全身くまなく?」

「はい。……あ、いえ! キアラ様の全身に、くまなくキスしたいと言っているわけではございませんので! ど、どうぞご安心を!」

「え!?」

「あ、いえいえ! ですからその、キスしたくないと言うわけではなくて! それどころか正直言えばすごくしたいんです!……って、さっきからなにを言ってるんだ俺は!」

 頭をブンブン横に振りながら悶絶しまくっているエヴルをポカンと眺めているうちに、頬がボッと火照ってくる。

 ぜ、全身、くまなくキス……?

 そんな私の様子を見たエヴルもますます動揺して、意味不明な言葉を口ごもりながら、どんどん顔が赤く染まっていく。

 ふ、とお互いの視線が合ってしまって、ふたり同時に調理済みのタコみたいにカーッと真っ赤に茹で上がってしまった。

 うぅ、顔がジリジリ熱い。頭から湯気が出そう。

「ま、参りましょうか?」
「え、ええ」

 気まずいような、くすぐったいような空気の中で、私たちは視線を逸らしたまま前に進んだ。

 だ、だから、いまは大変な状況なのに! もっとしっかりしなさい私!
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