最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 曲がり角も分かれ道もない廊下を真っ直ぐ進んでいくと、いきなり前方が大きく開けた。

 両開きに開け放たれた大きな扉の奥には、土や樹々の緑が見える。おそらく中庭なんだろう。

 エヴルの腕から下りて、その入り口に立った途端、私は目の前に広がる景観に絶句して引っくり返りそうになってしまった。

 ……まさに楽園。これぞ天上の美しさ。

 目を細めてしまうほど明るい広大な庭園を埋め尽くす多種多様な花々が、色と形を競うように爛漫と咲き誇り、妙なる芳香を漂わせていた。

 見上げる木立の繁みは木漏れ日がキラキラ輝き、天使の歌声もかくやと思われる小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 滔々と水が流れる音がする方へ目を向けると、大きな泉の中央に見上げるほど巨大な大木がそびえ立ち、幹のあちこちから噴水のように水が噴き出ていた。

 空中には丸い光が蛍のようにフワフワ無数に漂い、目の前でポンッと光が弾けると、中から小さな妖精がほんの一瞬姿を現し、笑顔で手を振りながら消えていく。

 見る、聞く、感じるすべての物が、現実ではありえない魅惑の世界。
 ……ああ、なんて素晴らしい。これぞまさに神の御業。

 ここの空気に包まれているだけで、体中が濾過されて綺麗になれる気がする。

 私は目を閉じ、胸いっぱいに息を吸い込んで、理屈ではなく心の底から実感し、納得した。

 ここは間違いなく、善神モネグロス様の住む神殿なんだ。
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