最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 ノーム様が両手を頬に当て、嬉しそうにニコニコする。
 緑に薄茶の混じった豊かな巻き毛が、風に揺れる繁みのようにサワサワと鳴った。

 イフリート様も自慢そうに胸を張ると、まるでたいまつの炎のような髪の毛がユラリと揺れて明るさを増す。

「当然なり。我らの演技は見事であったゆえ」

「苦労したかいがありましたね。イフリートの演技はかんぺきでしたから」

「ノームの演技も完璧。さすが我が愛しの妻なり」

「うふふ、わたしのイフリート……」

「我が妻、ノームよ……」

 いきなり自分たちの世界に突入して見つめ合うふたりの姿を、ポカンとしながら見入ってしまった。

 戦いの神話で大活躍するぐらいなんだから、勇猛で偉大な精霊様のはずなんだけど……。

 まるっきり、私が知ってる仲良し夫妻の、いつものイルフォとテーラの姿にしか見えない。

 舌足らずで幼い口調も、妙に堅苦しくて気張った口調も、多少グレードアップしてはいるものの基本的には変わっていないし。

「キアラさん、どうかこれまで通り、ふつうにしてください。わたしたちは仲間なんですから」
「我も、これまで通りを望む」

 そう言ってニコニコ微笑んでくれる表情は、顔立ちこそ違えど、やっぱり私が幼い頃から親しみ続けてきた表情。

 心から信頼する、私の家族のイルフォとテーラそのものだった。
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