最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「なんでもないんですよエヴルさんキアラさん! どうか忘れてください!」

「なんでもない! ゆえにふたりとも、いまの発言は記憶より抹消すべし!」

「なんでもないの! モネグロスのことは完全に無視してくれてかまわないから!」

 口々に『なんでもない』を連発して、懸命に取り繕おうとしているみなさんの様子が、明らかになんでもなくない状態。
 目に見えて狼狽していらっしゃる。

 自分の口を押さえつけている手を引き離したモネグロス様が、プハッと息をしながら反発した。

「なぜですか? エヴルが王位を継ぐべきでしょう? だって彼こそが二十年前の火災で生き残った、ナトゥーラ王室直系の王子なのですから」

「「「モネグロスーー!」」」

 再び三方から勢いよく飛んできた手に、バシィ!とモネグロス様の口が塞がれる。

「なんで言っちゃうんですかー!」
「愚かなり! あまりに愚かなりモネグロスよ!」
「本当にあなたったら、もう! 人の世の事象に我々は口出しはできないと、さっき言ったばかりでしょう!?」

 三方から散々責められたモネグロス様が、むきになって反論する。

「なぜ私ばかりを責めるのですか!? そもそも赤ん坊だったエヴルを炎の中から救い出したのは、あなたじゃないですかイフリート!」

「う……そ、それは……。我が盟友ヴァニス王直系の子孫が、炎の中で息絶えるなど、火の精霊として見るに忍びなきゆえ!」
< 72 / 162 >

この作品をシェア

pagetop