最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「私がこの国の王子だなどと、どうして信じられましょうか。仮に私が王子の名乗りをあげたところで、世間の誰も信じはしないでしょう」

 エヴルの言い分は、もっともだった。
 実は王子生存説というのは、これまでにも何度か浮上したことがあるからだ。

『我こそは本物の王子なり!』と、もっともらしく名乗りをあげる人間が現れるたび、世間は期待に膨れあがって大騒ぎになった。

 そして詐称がバレるたび、大きな期待を裏切られた国民は、深い失望を味あわされることになった。

 希望と失望が何度も繰り返されるうちに、『やはり王子は死んでしまったのだ』という認識が世間に定着してしまったのは、当然の成り行きだろう。

 いまでは王子生存説を唱える者など、審議もされずに笑い者になるだけ。
 エヴルが名乗りをあげたところで、王室はおろか、井戸端会議のおばちゃんたちにだって相手にされない。
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