最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
砂漠の夜に惑わされ
『とにかく、ゆっくり休むように』

 そう言ってアグア様が私に用意してくれた部屋は、バルコニーから砂漠が一望できる眺めのよい部屋だった。

 砂漠なんて砂しかないのに、ずっと見ていてもまるで飽きないのが驚きだ。

 果てなく続く滑らかな砂丘に吹き渡る風が、気まぐれな筆のように砂を動かし、その形を刻々と変えていく。

 日が傾くにつれて徐々に朱から薄紫に変わっていく空の色と、大地を染める黄金色が、地平線の彼方まで圧倒的な色彩の美観を創りだしていた。

 そしていまは、夜。
 涼しい風に誘われるようにバルコニーに出た私は、昼とはまったく違った砂漠の素晴らしさの虜になっていた。

 濃紺の空には、手を伸ばせば掴み取れそうなほど巨大で肉厚な月が浮かび、煌々と白銀の輝きを放つ。

 そして水晶のように澄んだ星々が、月の白い光を浴びて、一面の草原に咲き乱れる花のようにチラチラと瞬いていた。

 風が吹くたびシャラン……と弦楽器のような音が彼方で響き、ぶつかり合った星が砕けて銀粉になって、天から地上にサラサラと落ちてくる。

 夜の砂丘は、氷のように輝く星の粉に覆われ、ぼんやりと白く煙って光り輝いていた。

 夢のような世界に心を奪われ、言葉も出ない。
 風が優しく前髪をふわりと揺らすたびに、なんだか慰めてくれているような気がした。
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