最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「事実から目を背け、逃げ出したところで、そこに私の居場所はない。ならば私は運命と正面から向き合い、戦うことを望みます」

 体の芯からどんどん冷たい悲しみが溢れだし、いまにも泣き出しそうになってしまって、唇をキュッと噛んだ。

 でもエヴルの言葉は、砂漠に吸い込まれる水のようにスゥッと心の奥まで沁みてくる。

 彼の言う通りだ。
 逃げ出した先に、居場所なんかない。ましてや幸せなどありえないことは、わかりきっている。

 それでも逃げ出そうとした弱虫な私と違って、エヴルは困難と向かい合うことを立派に決意した。

「偉いわエヴル。その通りよ」

 少し鼻声になってしまったけれど、私はエヴルの勇敢な意思を讃えた。
 かすかに震える唇を無理やり微笑ませて、必死に笑顔を作る。

 やっぱり……予感、的中しちゃった。
 あなたは、私の手の届かない場所へ行ってしまうのね。

 でも私にはそれを咎める権利も、止める権利もありはしない。
 正統な王位継承者のエヴルこそが、この国の王となるべきだ。
 輝かしい未来に旅立つエヴルを、見送るべきだ。

 大好きなあなたとの別れを、笑って受けいれるべきなんだ……。

 零れそうな涙を懸命に堪え、痛みを押し隠しながら笑顔を取り繕う私とは対照的に、エヴルは心底明るい声を出す。

「キアラ様、では私が王位に就くことを、受け入れてくださるのですか!?」
「ええ……もちろん」
「ありがとうございます! きっとキアラ様を幸せにするとお約束します!」
「……」

 涙目で微笑みながら、私は内心「?」と首を傾げた。
< 84 / 162 >

この作品をシェア

pagetop