最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 とくん……と、胸が熱くざわめいた。
 おそらくエヴルは私の中に流れる異質な血筋のことを、『そんなことは関係ない』と言ってくれているんだろう。
 力強く言い切ってくれる彼の気持ちが、嬉しかった。

 それでも私は、ふるふると首を横に振る。

「だめ。私は王妃にはなれない」
「なぜです!?」
「……身分が、違うから」

 私は化け物だから。
 とは、さすがに言う気にはなれなくて、身分の問題を持ち出してお茶を濁した。

 これで納得してもらえると思ったけれど、エヴルはまったく意に介した様子もなくあっさり言い切る。

「身分の問題など、私たちの間には存在しませんよ。キアラ様はあのとき下男上がりの騎士の口づけでも、受け入れてくださったではありませんか」

「そ、それは……」

「同じですよ。なにも変わらない。身分など無意味であることを、キアラ様自身が一番ご理解なさっているはずです」

 そうだった。そのはずだった。……あのときは。

 私の方が身分が高いと思っていたときは、私にとって身分差なんて、なんの問題にもならなかった。

 でもこうして立場が逆転した途端、骨身に染みて障害を感じる。

 逆に言えば、それほどの高い壁を乗り越えて、私に想いを告げてくれたエヴルの勇気と覚悟の強さは尊敬に値するけれど。

「でもね、それは私たちの間でだけよ。エヴルが王になったら、その地位に相応しい令嬢が、あなたの隣に立たなきゃいけないの」

「いいえ、私にそんなものは必要ありません」
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