最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 エヴルの大きな両手が、懸命に訴える私の頬をそっと包み込んだ。

 武骨だけれど温かい指先に、驚くほど優しく繊細に頬を撫でられて、私の胸は切なく震える。

「キアラ様は、私以外の男を夫に迎え、愛することができるのですか?」

 グッと言葉に詰まる私に問いかける彼の目は、どんな巧妙な嘘も通用しないだろうと思うほどに、真っ直ぐだった。
 澄んだ美しい瞳に吸い込まれそうになる。

「できないはずだ。私にはそれがわかるのです。なぜなら、私もそうだから」

 エヴルの顔が近づいて、私のオデコと自分のオデコをコツンと触れ合わせる。

 思わず瞳を閉じた薄闇の中で、彼の体温や指先の感触が、それまで以上に敏感に感じられた。
 
「言ったはずです。キアラ様の隣で、キアラ様を愛することだけが私の幸せだと。私には他の女性などいらない。必要がない」

 目を閉じて聞く、エヴルの声。
 鼓膜を震わす柔らかな響きも、伝わる真心も、頬を撫でる指の動きも、なにもかもが、ハッとするほど愛おしくて堪らない。

「ああ、私のキアラ様。あなた以外に愛せる存在など……ありえない」

 熱い吐息とともに捧げられた言葉が、私の心を甘く貫き、虜にした。
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