最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 自分の中に流れるおぞましい血のことさえ、忘れてしまいそうになるほど嬉しくて、幸せ。
 目尻から、喜びとも切なさとも知れない涙がほろほろ零れる。

 零れるままに、零していたい。……いまは。

 いずれは、逃れられない現実がきっと訪れるだろう。
 でもそれまでは、夢を見ていたいと思う。

 エヴルが王位に就くために私も全力を尽くすから、だから、こんなにも大好きなエヴルの隣に、もう少しだけいさせてほしい。

 せめてそれくらいは許されるよね? どうかお願いだから……許して。

「エヴル、私もあなた以外に愛せる人なんていない」

 鼻を啜りながら、にっこり笑ってそう言った。
 伝えられなくなってしまう前に、何度でも伝えたい。この胸に溢れる気持ちを。

「大好き。私はあなたを愛してる」

 感極まったエヴルが歓声を上げ、潰れてしまいそうなほど私をぎゅうぅっと強く抱きしめてくれる。
 息が止まるほどの痛みが、彼の想いの強さとなって私の中に入り込んだ。

「エヴルったら、痛いわ」
「あ! も、申し訳ございません!」

 バッと腕を放して私から飛びのいたエヴルが、これ以上ないほど幸せそうな顔をする。

「まるで夢を見ているようです! 本当に夢みたいだ!」

「私も夢をみているみたい。この砂漠の景色に魔法をかけられたような気がするわ」
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