最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 まず金遣いの荒さが尋常じゃないらしい。
 毎夜毎夜、友人知人を集めては舞踏会三昧。もてなす料理も、音楽も、趣向も、桁外れに豪華でド派手なのがお好みでいらっしゃる。

 意味もなく夜通し打ち上げられる連続花火の騒音に、近隣は日々悩まされていた。
 しかも彼は気まぐれで、そのうえ堪え性がない。

『五日のうちに、南国の珍しい花で屋敷中を埋めつくせ』

 そんな無理難題を花屋に押し付けたくせに、死にもの狂いで用意してきた花屋の主人を、『やっぱり北国の花がいい。今度は三日で用意しろ』と言って追い返す。

 見かねて諫言した年老いた執事を、『お前、うるさいよ』のひと言でクビにして、着の身着のまま屋敷から放り出す始末。

 祖父の代から仕えてくれた古参の執事ですらその扱いなのだから、ほかの使用人や出入り業者、領地の民への扱いたるや推して知るべしだ。

 絶対、大量の恨みつらみを買っていると思う。
 そんな相手との婚約や結婚が、平穏無事に済むとは思えない。

「結婚式の真っ最中に、復讐に燃えた花屋と執事の連合軍とかが、包丁振り回しながら神前になだれ込んできたらどうしよう……」

「それならそれで大歓迎ですね。いっそ振り回した包丁がティボー様の心臓あたりにうまく突き刺さってくれたなら、言うことなしのハッピーエンドなのですが」

 ものすごく真面目な顔したエヴルが、そんな物騒なセリフを口にする。

 たしかにそれはそれで見物だとは思うけど、さすがに世の中そう都合良い展開にはならないだろう。

「私、なんの因果でティボー様と婚約なんかする羽目に陥ったんだか……」
< 9 / 162 >

この作品をシェア

pagetop