最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 エヴルと肩を寄せあって、幻想のような砂漠の世界を眺める。
 月の光も、星の瞬きも、砂の形もなにもかも、一生忘れないように目と心に焼きつけておこう。

 おそらく、いまこの瞬間が私にとって、一番幸せな時間なのだろうから……。

「あ、あれはイフリート様とノーム様ではありませんか?」

 エヴルが指さす方向に、手を繋いで砂漠を歩くふたつの影が見えた。
 たしかにイフリート様とノーム様だ。
 あのふたりも、この美しい砂漠で過ごすひと時を、心のままに楽しんでいるんだろう。

 仲睦まじく寄り添い合って歩くたび、足元の星の粉がふんわりと舞い上がって、夜の空気を霧のように薄白く染める。

 月の白銀と、星の煌めき。
 闇を照らす道標のような、力強く輝く炎の赤。
 萌える命のように艶やかに映える、逞しくも優しげな樹の緑。

 私たちの目の前に、気の遠くなりそうなほど美しい世界が存在していた。

「なんて素晴らしい……」
「ええ……」

 言葉に、できない。
 自分の目が信じられないほど美しくて、あまりにも美しすぎて、涙が出てきそうだ。
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